余命わずかでも患者の”やりたいこと”に寄り添う。在宅医療の枠を超えて終末期の人を支えるクリニック

余命わずかでも患者の”やりたいこと”に寄り添う。在宅医療の枠を超えて終末期の人を支えるクリニック

https://youtu.be/a2QPHhBFMwE

余命わずかでも患者の”やりたいこと”に寄り添う。在宅医療の枠を超えて終末期の人を支えるクリニックが大阪にあります。密着しました。

子供向けに開かれた手話教室。先生を務めるこちらの男性は、清家政弘(せいけ・まさひろ)さん。現在55歳。一見、元気そうに見えますが、実は重い病気を患い、余命が限られています。こうした終末期の患者を支えるのが大阪・河内長野市の医師水野宅郎(みずの・たくろう)さんのクリニックです。
【水野医師】「入院すると行動が制限されるので、できる限り自宅で過ごしたいという人が増えている」
コロナ禍で最期の時間を自宅で過ごす人が増加。いま特に、在宅での医療や看護に力を入れています。

ことし1月、診療のためクリニック近くの清家さん宅へ。「ご飯は食べれてる?」「朝、昼、夜、あとたまにおやつ」生まれつき耳に障害がある清家さん。2022年大腸がんが再発し、その影響で3度、腸閉塞を起こしました。
「先月まで入退院を繰り返して(がんが)骨や組織や皮膚、全部に浸潤している。今はもうこっち側に突き破ったので外に膿が出るようになった」

この穴は、がんが皮膚を破ってできたもの。体内で細菌が増えると命にかかわるため膿を取り除きます。終末期の患者の生活を維持するには、手厚いサポートが必要。看護師の細田さんがほぼ毎日訪問します。
【細田看護師】「病院は常に医療者がいるけど、終末期の患者さんは家に帰ってくるとなると不安。その時に水野先生が『ウチはこの家を病室にします』と言っていたのが、すごく印象的で私は“歩くナースステーション”になろうっていう感じで、不安を少しでも取り除ければいいなと思っている」

清家さんが在宅を選んだのにはある理由が。「野球、相撲、サッカー、バレー、聞こえないけどルールは見たらわかる」それは大好きなスポーツ観戦を続けるため。3月に大阪で開催される大相撲を生で見たいと言いますが、1人での外出は不安が残ることから、クリニックでサポートすることに。「末期やからって家で寝とけっていうのはちょっと違う。治療はもうないにしてもやれることはある」
しかし、がんは日に日に大きくなり、いつ容態が急変してもおかしくありません。大相撲観戦の日の朝。細菌の増殖を防ぐ抗生剤の量や種類を調整、なんとか症状が安定しました。

「病気を持っている人というだけであって1人の生活者がそこにいるから、その人が暮らしやすい、辛くないようにするにはどうしたらいいのかと考えています」
残りの時間が少ないからこそ、望みがあるなら叶えてあげたい。水野さんたちのクリニックではそんな気持ちを胸に、医療の枠に囚われずに活動をしています。
「医者としてというよりは町の兄ちゃんが医師免許を取って帰ってきたっていうイメージだから、近所の人が困っていることがあったら助けなあかんなっていうのをいつも思っている」

相撲観戦からおよそ1ヵ月後。再び清家さんのもとを訪ねました。容態に変化は?
「炎症のデータがすごく高い状態は続いている。いま1日2回抗生剤を入れなんとか感染を抑えている。(点滴は)1日も休めない」
がんは、さらに大きく、そして崩れやすくなっていました。大量に出血すれば、命にかかわる事態です。ですが、もう1つ叶えたいことがあると言います。
「福岡に行きたいって言ったんですよね」それは球場へ行くこと。実は福岡ソフトバンクホークスの大ファン。「南海ホークスの時、お別れを見に行った時、辛かった。福岡へ行ってしまいますって言われて」子供の頃に野球を始め、南海の時代からホークス一筋。応援団にも所属し、何度も球場へ足を運びましたが
“もう一度行きたい”と言います。

5月2日、清家さんたちは新大阪駅に。なんと、看護師の細田さん同行のもと、泊りがけで福岡へ行くことに。
「相撲の時とはリスクがくらべものにならないくらい上がっている。ただ、本人が行くと言っているので、看護師について行ってもらって細田が無理だと判断したら即中止して帰ってくる」患者の望みと命――、水野さん、最後まで判断を迷ったと言います。

博多駅へ着くと細田さん、1人どこかへ。一体どうしたんでしょうか?
「お世話になっている先生。何かあった時にアドバイスお願いしますと。1人で不安なので」
ホークスの本拠地、福岡PayPayドームへ来ることが出来ました。この日の試合はオリックスとの3連戦の初日。期待のサウスポー・大関(おおぜき)が先発です。ゴールデンウィーク中とあって大賑わい。お尻に当たらないよう気を付けます。イチオシ選手のパネルを見つけ、この笑顔。

まず、向かったのは……。「お疲れ様~!痩せたね~…」「なかなか大阪に行けなくて」新型コロナの影響もあって、ずっと会えていなかった応援団の仲間です。
音は聞こえなくても、球場の雰囲気は格別。生で見られるのは最期かもしれない。プレー1つ1つをその目に焼き付けます。
「ここに来ないとダメな理由がわかりました。そんなリスクを冒して福岡まで行かなくてもいいじゃないかって言っていたけど家で見る顔と違うので。もっと会いたい人もいるし、行きたい場所もあるって言っていた」
「(がんの痛みなど)嫌なこと忘れられてよかった。久しぶりに会って挨拶できて、元気な顔を見られたからよかった」
夜、滞在先の、ホテルに戻って患部をチェック。ガーゼを変えて、1日を無事に過ごせました。

次の日。1日2回、命綱とも言える抗生剤の点滴と、廃液などで汚れた患部を洗浄。さらに。大阪にいる医師の水野さんにオンラインで診療をしてもらいます。
「あんまり血は出てないな」「滲出液や廃液はめっちゃ多いです」
2泊3日の旅はまもなく終わり。何事もなく帰宅できる、そう思った矢先。清家さんが席に敷いた座布団が真っ赤に。どうやら外に漏れるほどの出血をしたようです。幸い大事には至らず。ですが、終末期の患者を支えることの難しさを再認識した旅でした。

「同行してよかったのか悪かったのか、考えても答えは出ないが、私だけの悩みにせず、みんなで共有していく」
「壁があったら超えていこうということに力や知恵を出していくのが僕らのスタイルだけど、救急搬送だとか迷惑をかけるケースは出てはいけない。(今回の旅は)今後、検証が必要」

 

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