初めての中国行きを前に、
シリーズ第1弾『甦るシルクロードの大地』のロケに同行した後輩記者から
中国取材の心得を記した1枚の紙をもらいました。そこには中国で取材するにあたり、
助手が心得ておかなければならない幾つかの事柄が書かれていました。
中国取材の心得…聞こえは大そうですが、内容はというと、
- 「白酒はメチャクチャきついですが、中国では飲まないと半人前扱いされまともな取材はできません」
- 「生野菜には要注意ですが、現地の下痢止め薬も要注意です。効きすぎて帰国後も便秘が続きます」
- 「携帯電話の使いすぎに注意、自分は10万円近く請求が来てしまいました」
実体験に基づく注意事項ばかり。
いうなれば「取材の心得」というより「旅のしおり」です。
その中に、覚えておくべき中国語として“請給我発票”という言葉がありました。
後輩曰く「現地で最も多く使った中国語」だそう。
私の中国語レベルは日本の小学生でも知っている挨拶程度
(学生時代の第2外国語はフランス語でした)
“請給我発票”の意味はもちろん、読み方すらわかりませんでした。
この言葉、カタカナ表記すると“チンゲイウォ・ファピャオ”
日本語に訳すと「領収書(発票)を頂けますか?」になります。
なるほど、取材中使用した経費の管理の為、領収書をもらうのは重要な仕事。
後輩から数々の忠告を受けた私はこの言葉だけを胸に留め中国に発ちました。
中国での取材が始まると
私は行く先々で覚えたての中国語“請給我発票”を連呼するようになりました。
初めて目にした中国の領収書は、日本のものと比べ姿かたちこそ同じですが
内容に大きな違いがありました。
【ここがビックリ中国の領収書(1)】
金額を1枚の紙に直接書き込むのではなく、
1元・5元・10元・50元・100元の単位ごとの発票を金額にあわせた枚数を発行する。
(例:154元の領収書の場合、100元×1枚・50元×1枚・1元×4枚…計6枚の発票)
↑上のほうに「内蒙古自治区呼倫貝爾市定額発票」とあります。
さて、ここで問題です。
スタッフ5人が1人1泊100元のホテルに3日間逗留した場合、
ホテルから受け取る発票の額面は合計いくらになるでしょうか?
答えは…………………………………………………わかりません。
5×100×3=1500元と言いたいところですが、
渡される発票の合計額は精算処理をした従業員によって異なるのです。
1500元ピッタシの発票を受け取ることもあれば、大幅に少ないケースもあります。
(特に524元とかだと面倒くさいので、従業員が勝手に500元に切り捨てる)
このため中国に精通する綱沢プロデューサーは、
発票を受け取るたびに従業員の目の前で数えていましたし、
私にも「金額あってるか、ちゃんと数えといて」とマジ顔で指示してくるのです。
額面に応じた枚数を発行するシステムなので
1500元の場合、最低でも100元×15枚の発票を受け取る(※注1)ことになるのですが、
店側の持ち合わせがないことが多く1500元をいくつかの単位で分けて発行するため、
日本なら1枚の領収書で済むところでも、分厚い発票の束になってしまいます。
【ここがビックリ中国の領収書(2)】
発票の端っこに銀色のスクラッチくじがついている。
↑このスクラッチを削って数字が出たら“当たり”
初めて発票をもらった時に「なんやこれ?」と思っていましたが、
先を急いでいたためか、特に気にしないで放っておきました。
いつだったかロケも中盤を過ぎた頃、
通訳の金さんが昼食をとった店から受け取った発票のスクラッチ部分を
指の先でこすっていました。
「それ、何なんですか?」と問い掛けるや
「え?知らないの?今までの発票どうしてたの?」とやや気色ばんだご様子。
「え?これ何か分からんかったから、触れずにいましたよ」
「だめだよ児島記者、お金を大事にしなきゃ!
監督(金さんは綱沢プロデューサーをこう呼ぶ)に怒られるよ~!!」
発票のスクラッチの意味を知らない私は、金さんの剣幕の理由もわかりませんでした。
金さんが真剣になるのも無理もありません。
発票のスクラッチは「キャッシュバックくじ引き」なのです。
スクラッチを削って、1元や5元などの当たりがでれば、
うれしいお小遣いが返ってくるのです。
先述の後輩は20元(約300円)ほど当てたそうですが、
取材の心得には書かれていませんでした。
そんなことはつゆとも知らない私は
取材期間中に受け取った発票の大半を放置していました。
もしかしたらミネラルウォーター1ダース分ぐらいになっていたかもしれません。
尤も、ほとんどがハズレだそうで、
元来くじ運は悪いほうの私は「まぁいいか」と思い、
それ以降もスクラッチを削ることはありませんでしたが…
ところで、なぜ発票にスクラッチくじが付いているのかというと、
聞いたところでは商店などが売上を申告する際に、実際よりも少なく申告することに頭を抱えた政府が正確な売上を把握する為に考え出したアイデアらしいのです。
つまり…
「正確な売上把握のために発票を発行させたい」
↓
「消費者が発票を欲しがるようにすればいい」
↓
「キャッシュバックくじを付ける」
という理屈です。
なかなかのグッドアイデアだと思いましたが、
内モンゴルで「請給我発票」とお願いするたびに
店員さんが慣れない手つきで発票の台紙を探し回る手つきを見ていると
発票はあんまり浸透してないのかなと感じました。
↑烏申旗のホテルのフロントで精算待ち
…領収書の発行に1時間近くかかり、さすがの綱沢Pもイライラしてました。
(注1)プロデューサーからの一言
児島記者はおそらく見たことがないのでしょうが、中国には500元、1,000元の領収書もあります。ただ、確かに地方の田舎では見かけたことがないですね。1,000元といえば牧民の平均年収(約6万円)の4分の1ほどに当たるので、一般で使われることはほとんどないからでしょう。こんなところにも格差社会の一端が見えます。