日中干支事情

2008 年 10 月 16 日

シリーズ13億人の深層・第2章「迫り来る砂に挑む」放送が近づいてまいりました。
様々な意味で過酷なロケだっただけに、喜びひとしおという思いです。

第1次ロケの最終日、何とか乗り切った過酷な旅の思い出にと
家族に内モンゴル土産を買うことにしました。
フフホト空港(地方空港なのに新しくてキレイでびっくりしました)の搭乗口近くにある売店に入り、食べ物よりも何かずっと残るものがいいなと、羊のぬいぐるみやモンゴルの酒器などを物色していましたが、どれも結構なお値段なのであえなく断念。
探し回った挙句(といっても30秒ほどです。いつも買い物は即決するほうなので・・・)、
皮製のキーホルダーとペン立てを選びました。

棚にはネズミやトラなど干支をモチーフにした
12種類の動物をかたどった商品が並んでいました。
なるほど、十二支か・・・中国にも干支があるんですね・・・と思いましたが、
この手の文化は殆どが元をたどれば大陸から日本にもたらされたもの。
コーディネーターの金さんに指摘され、
日本がアジアの一部である事を改めて実感しました。


▲内モンゴル北部・ハイラル空港での金さん
ロケの合間の待ち時間を使い、分厚い本を5~6冊読破してました。

私の家族には猪年生まれの者がいるので猪のストラップを探したのですが、
他の動物はあるのにどうしても猪だけが見つからないのです。
しかも、どれも微妙なつくりなので「これ、ウサギ?」というものもあり、
もしかして見落としているのでは?と思ってよく手にとって見ることにしました。
探すこと2分・・・やはり猪ストラップは見当たりません。
売り切れかと思い店員に聞くことにしました。
中国語は話せないので、例によって筆談による異文化コミュニケーションです。
私がメモ帳に「猪」と書いて女性店員に見せると、
うなずいたあと目の前の棚に置かれていたストラップを自信満々の表情で手に取りました。
で、手渡されたのがこれ・・・


▲え? これは見たところ豚のようですが・・・

う~ん、どうしたものか・・・
応対してくれた店員はいつの間にか3人に増え、全員満面の笑み。
「猪が欲しいのでやっぱりいりません」って中国語でいえないし
搭乗時刻はもうそこまで来ている。
えーい、こうなりゃ豚にみえる猪もご愛嬌
家族に渡すものだしお土産は気持ちが大事!
というわけで、豚に激似の猪ペン立ても一緒にお買い上げ~♪


▲見ようによってはタヌキにもみえてきた・・・

勘のいい皆さんならもうお分かりかと思いますが、
中国ではイノシシ年というのは無いらしいのです。
「猪」という文字は日本でいうところの「豚」の意味。
私の書いた「猪」の文字を見た店員が、自信満々に豚ストラップを差し出してきたのです。
う~ん、同じ文字を持つ国でも微妙な違いがあるんですね。
聞けば、「猪(ブタ)」は豊かさの象徴だとか・・・
ま、縁起物だということで家族にはゆるしてもらうことにします。

ちなみに、十二支は中国以外にもアジア各国であるみたいです。
微妙に動物や順番が違っているので比較してみると「へぇ~」な発見がありますよ。

中国人の温かさ?!

2008 年 10 月 3 日

前回に続いて飲み物のお話…

ご好評を頂いている綱沢Pのロケ日記で既報の通り
中国滞在中の白酒をめぐる私の大失態はご存知のことかと思います。
連日の白酒祭りで学習した私は二度と同じ過ちを繰り返すまいと思い、
いつしか足元にチェイサーとして
ミネラルウォーターを忍ばせておくようになっていました。
(テーブルの上に堂々と置いて乾杯のたびにガブガブいくのも、
なんだか失礼のような気がしたもので…)

ある日、いつもなら2本常備しているミネラルウォーターを1本だけ、
しかも残りわずかな状態のまま酒席に着いた事がありました。
現地の皆さんの執拗な乾杯…いや歓待はいつもながらに凄まじく、
我々のグラスには容赦なく白酒が注がれていき
命綱ともいえるミネラルウォーターはついに底をついてしまいました。


▲乾杯用の小さなグラス ドリンクが白酒オンリーの食事は辛い

前回説明したように塩辛いお茶は飲めないし、
増田カメラマン(完全な下戸)のようにジュースを飲むと
我々が勝手に“龍虎”と名づけた酒癖の悪そうなドライバーに
「なぜ酒を飲まないのか?」とドヤされる…


▲ドライバーの“龍虎”(右)と乾杯する音声・清水氏、目が辛そう…
この“龍虎”の強引な乾杯はちょっと迷惑でした。

いったいどうしたものか?
考えたあげく、皆が酔っ払った隙に
こっそり“お冷”を頼むという名案が浮かんだのです。

宴たけなわ、綱沢Pや坂本さんが“北国の春”の熱唱を始めた頃
私は皆が酔っ払っていることを確認し
「そろそろ決行だな」と意を決しました。

部屋の片隅に控えていたウェイトレスを呼び、
中国語で「ウォ・ヤオ・シュイ(我要水)」と頼みました。
しかし、私の発音では通じず
3回ぐらい頼んでも首を傾げるばかり、
仕方なく私はメモ帳に漢字で「水」と書いて見せました。
I see ! …英語ならばそんなところでしょうか、
ウェイトレスは、うなずいて笑みを浮かべたまま厨房に向かいました。
さすが同じ文字を持つ国民同士、
漢字一文字でうまく意思疎通ができた私は
「これでお冷が飲める」と救われた思いでした。

しばらくしてウェイトレスが
右手にグラスを持って戻ってきました。
しかも誰も気づいていない様子。
待望のお冷が目の前に置かれ、
私はすぐにグラスを手に取りました。

ところが、手に取ってビックリ!
グラスが熱いのです。
よく見ると湯気も出てます。

なんじゃこりゃ~っ!!

お察しの通りです。
出てきたのはお湯だったのです。(※注1)
私は注文の際、確実に「水」と書きましたし、
それを見たウェイトレスもニコやかにうなずいていました。
にもかかわらず、目の前にあるのは熱々の「お湯」
いったいなぜ?

中国では「水」という文字は「お湯」を意味するのでしょうか?
「湯」という文字は「スープ」を意味することぐらいは知っていますが
普通の水はなんて表すのでしょう?

後から考えたのですが、
恐らく中国では冷たい水を飲むという習慣がないのでしょう。
そういえば滞在中出された飲み物はコーラでもビールでも何でも
すべてがぬるかったです。
キンキンに冷えたビールなんて上海にもなかった気がします。
たまに比較的冷えたビールが出てくると
音声の清水さんと「これ冷えてます!」と言って
大はしゃぎしたものです。


▲ぬるかった可口可来(コカ・コーラ)、北京五輪の記念デザイン


▲ハイラルのビールは比較的冷えてたので嬉しかったです。
増田カメラマンは下戸なので興味なさそう・・・

まぁ、お湯でも
悪酔いを避けるチェイサーとしての役割は十分果たせたので
贅沢は言えませんが、
できれば氷の入った冷たい水を一気のみしたかったなぁ~

(注1)プロデューサーからの一言
店員は水道水を持ってきたのだと思います。ご存知の通り中国では水道の水はそのままでは飲めないので沸騰させます。それをそのまま持ってきたのだと思います。また、中国人は冷たいものを嫌う傾向があります。体を冷やす食べ物もあって、氷水や生野菜とかはもちろん有名な上海ガニも体を冷やす食べ物に分類されます。(上海ガニを食べた後は必ず体を温める飲み物、生姜湯を飲んで中和させます)
そんなこともあり、なかなか冷たい飲み物にはめぐりあえないのです。

お茶どうぞ

2008 年 9 月 26 日

内モンゴル滞在中、取材班は様々な場所で食事をとりました。

街の食堂・ドライブイン・ホテルのレストラン・牧民の家…
どこでも席についた時に最初に出されたのがお茶です。
長時間にわたる取材の合間の休憩タイム。
ホッとひと息いきたいところですが、
内モンゴル滞在中、私はほとんどお茶を口にしませんでした。
その理由は…

内モンゴルで初めてお茶を口にした時の衝撃は忘れられません。
なんせ塩辛いお茶なんぞ、生まれてこの方お目にかかったことはなかったのですから…。

内モンゴルのお茶は、見た目と香りこそよくある中国茶ですが、その味は大違い。
塩味が効いているのです。
それも隠し味なんて生易しいものではなく、お塩がしっかり自己主張。
最初は色合い的にコンソメスープと思って飲もうと思いましたが、すぐに限界がきました。
日本のお茶の味が染み付いた体が順応しないのです。

綱沢Pと増田カメラマンの40代チームは
この塩辛いお茶が平気らしく、おいしそうにガブガブいってましたが、
私と音声の清水さんの30代チームは
わざわざ注いでくれた給仕の人や牧民に失礼にならないよう、
ほんの少し口をつける程度でした。

お茶が出ると恐る恐る口をつけ塩味かどうかを確認し
たまに普通のお茶が出てくると安堵の表情を浮かべる
私と清水さんの怯えようは、
現地の人々にはさぞかし滑稽に映ったことでしょう。

さらに驚きだったのが、内モンゴルの牧民たちのお茶の飲み方です。
牧民はこれに羊のミルクを入れてミルクティーにして飲むのですが、
塩味のミルクティーよりも衝撃的だったのが、その「食べ方」でした。
牧民たちはこの塩辛いお茶の中にチャオミーと呼ばれる穀物と
茹でた羊肉をいれてお茶漬けのようにして食べるのです。
ドライバーの“正蔵師匠”ことウーさんは「これが一番おいしい」と言っていました。
増田カメラマンも同じようにして何杯もお代わりし
すっかり現地の人に同化していました。

中国ではお店で売られているペットボトルのお茶が
砂糖入りで甘いというのも驚きでしたが、
塩辛いお茶はどうやらモンゴル族だけの文化のようです。
隣の寧夏回族自治区や上海のレストランでは普通の中国茶が出てきました。

郷にいれば郷に従えといいますが、
お茶というごく身近な食文化なほど
順応しにくいものだと感じたのでした…

請給我発票

2008 年 9 月 12 日

初めての中国行きを前に、
シリーズ第1弾『甦るシルクロードの大地』のロケに同行した後輩記者から
中国取材の心得を記した1枚の紙をもらいました。そこには中国で取材するにあたり、
助手が心得ておかなければならない幾つかの事柄が書かれていました。

中国取材の心得…聞こえは大そうですが、内容はというと、

  1. 「白酒はメチャクチャきついですが、中国では飲まないと半人前扱いされまともな取材はできません」
  2. 「生野菜には要注意ですが、現地の下痢止め薬も要注意です。効きすぎて帰国後も便秘が続きます」
  3. 「携帯電話の使いすぎに注意、自分は10万円近く請求が来てしまいました」

実体験に基づく注意事項ばかり。
いうなれば「取材の心得」というより「旅のしおり」です。

その中に、覚えておくべき中国語として“請給我発票”という言葉がありました。
後輩曰く「現地で最も多く使った中国語」だそう。
私の中国語レベルは日本の小学生でも知っている挨拶程度
(学生時代の第2外国語はフランス語でした)
“請給我発票”の意味はもちろん、読み方すらわかりませんでした。
この言葉、カタカナ表記すると“チンゲイウォ・ファピャオ”
日本語に訳すと「領収書(発票)を頂けますか?」になります。

なるほど、取材中使用した経費の管理の為、領収書をもらうのは重要な仕事。
後輩から数々の忠告を受けた私はこの言葉だけを胸に留め中国に発ちました。

中国での取材が始まると
私は行く先々で覚えたての中国語“請給我発票”を連呼するようになりました。
初めて目にした中国の領収書は、日本のものと比べ姿かたちこそ同じですが
内容に大きな違いがありました。

【ここがビックリ中国の領収書(1)】

金額を1枚の紙に直接書き込むのではなく、
1元・5元・10元・50元・100元の単位ごとの発票を金額にあわせた枚数を発行する。
(例:154元の領収書の場合、100元×1枚・50元×1枚・1元×4枚…計6枚の発票)


↑上のほうに「内蒙古自治区呼倫貝爾市定額発票」とあります。

さて、ここで問題です。
スタッフ5人が1人1泊100元のホテルに3日間逗留した場合、
ホテルから受け取る発票の額面は合計いくらになるでしょうか?

答えは…………………………………………………わかりません。

5×100×3=1500元と言いたいところですが、
渡される発票の合計額は精算処理をした従業員によって異なるのです。
1500元ピッタシの発票を受け取ることもあれば、大幅に少ないケースもあります。
(特に524元とかだと面倒くさいので、従業員が勝手に500元に切り捨てる)

このため中国に精通する綱沢プロデューサーは、
発票を受け取るたびに従業員の目の前で数えていましたし、
私にも「金額あってるか、ちゃんと数えといて」とマジ顔で指示してくるのです。

額面に応じた枚数を発行するシステムなので
1500元の場合、最低でも100元×15枚の発票を受け取る(※注1)ことになるのですが、
店側の持ち合わせがないことが多く1500元をいくつかの単位で分けて発行するため、
日本なら1枚の領収書で済むところでも、分厚い発票の束になってしまいます。

【ここがビックリ中国の領収書(2)】

発票の端っこに銀色のスクラッチくじがついている。


↑このスクラッチを削って数字が出たら“当たり”

初めて発票をもらった時に「なんやこれ?」と思っていましたが、
先を急いでいたためか、特に気にしないで放っておきました。
いつだったかロケも中盤を過ぎた頃、
通訳の金さんが昼食をとった店から受け取った発票のスクラッチ部分を
指の先でこすっていました。
「それ、何なんですか?」と問い掛けるや
「え?知らないの?今までの発票どうしてたの?」とやや気色ばんだご様子。
「え?これ何か分からんかったから、触れずにいましたよ」
「だめだよ児島記者、お金を大事にしなきゃ!
監督(金さんは綱沢プロデューサーをこう呼ぶ)に怒られるよ~!!」
発票のスクラッチの意味を知らない私は、金さんの剣幕の理由もわかりませんでした。

金さんが真剣になるのも無理もありません。
発票のスクラッチは「キャッシュバックくじ引き」なのです。
スクラッチを削って、1元や5元などの当たりがでれば、
うれしいお小遣いが返ってくるのです。
先述の後輩は20元(約300円)ほど当てたそうですが、
取材の心得には書かれていませんでした。
そんなことはつゆとも知らない私は
取材期間中に受け取った発票の大半を放置していました。
もしかしたらミネラルウォーター1ダース分ぐらいになっていたかもしれません。
尤も、ほとんどがハズレだそうで、
元来くじ運は悪いほうの私は「まぁいいか」と思い、
それ以降もスクラッチを削ることはありませんでしたが…

ところで、なぜ発票にスクラッチくじが付いているのかというと、
聞いたところでは商店などが売上を申告する際に、実際よりも少なく申告することに頭を抱えた政府が正確な売上を把握する為に考え出したアイデアらしいのです。

つまり…

「正確な売上把握のために発票を発行させたい」

「消費者が発票を欲しがるようにすればいい」

「キャッシュバックくじを付ける」

という理屈です。

なかなかのグッドアイデアだと思いましたが、
内モンゴルで「請給我発票」とお願いするたびに
店員さんが慣れない手つきで発票の台紙を探し回る手つきを見ていると
発票はあんまり浸透してないのかなと感じました。


↑烏申旗のホテルのフロントで精算待ち
…領収書の発行に1時間近くかかり、さすがの綱沢Pもイライラしてました。

(注1)プロデューサーからの一言
児島記者はおそらく見たことがないのでしょうが、中国には500元、1,000元の領収書もあります。ただ、確かに地方の田舎では見かけたことがないですね。1,000元といえば牧民の平均年収(約6万円)の4分の1ほどに当たるので、一般で使われることはほとんどないからでしょう。こんなところにも格差社会の一端が見えます。

モンゴル族と日本人

2008 年 9 月 4 日

羊肉・白酒・長距離移動(追って詳述します)という3拍子揃った過酷な内モンゴルロケでロケクルーの間でちょっとした楽しみとなっていたのが「有名人探し」です。

ルールは簡単・・・いや、単純です。
現地の人々の中に日本の有名人に似ている人を探すだけ。
ロケの合間の馬鹿馬鹿しい遊びですが、
我々にとっては過酷な行程を少しでも楽しく乗り切るために自然に身についた“知恵”でした。

例えば、ドライバーのモンゴル族の男性に
我々がつけたニックネームは「正蔵師匠」
いわずと知れた落語家、九代目・林家正蔵(元・こぶ平)さんです。

今回の取材で大変お世話になった
自然保護区管理局のダブ局長(この方もモンゴル族です)は
演歌歌手の山本譲二さんに激似でした。
結構男前なので番組でチェックしてください。

他にも、杉田かおるさん・村上龍さん・びびる大木さん・・・など有名人に始まり、果ては会社の先輩や上司まで!
内モンゴルには色々なところに日本人のそっくりさんがいるのです。

極めつけは、ダブ局長との宴席の際、部屋に描かれたモンゴル帝国の英雄
チンギスハン6代目の肖像画でした。
誰に似ているかといえば・・・他ならぬ私自身です!!

これには日本人スタッフのみならず、
ダブ局長や料理を運ぶウエイトレスの女性さえも大爆笑!
その後、大撮影大会が始まったことは言うまでもありません。

赤ちゃんのお尻の青い斑点を「蒙古斑」というように
日本人のルーツはモンゴル民族にあるという説がありますが、
なるほど!と納得してしまうほど、取材先で出会う人々は皆、日本人にそっくり!

モンゴル族に日本人のルーツを感じた我々の心の中に
内モンゴルに対する親近感が芽生えるのに
たいした時間はかかりませんでした。